【1日目】
「燕岳」は南アの「甲斐駒ヶ岳」と同じ花崗岩とハイマツの織りなす山頂が魅力の山だ。さらに高山植物の女王「コマクサ」を始め様々な花が咲いている。可憐な、でも力強く逞しく生きている高山植物との出会いも楽しみだ。。 それと「大天井岳」への稜線歩きは「槍ヶ岳」と穂高連峰を展望しながらの豪華な縦走だ。 今回の計画は「燕山荘」、「常念小屋」に泊まり、中房温泉から燕岳を目指し、翌日は常念岳への縦走。3日目に一の沢に下山するというものだ。 久し振りの北アルプスなので楽しみだ。梅雨の最中なので天気が心配だが、予報では何とか15日は曇り、但し2日目からの15、16日は曇り又は雨だ。ちょっと危ういけどしようがない、後は運を天に任せよう。
中房温泉で前泊するのは休みの都合で駄目なので、苦手の夜行列車で行くことにした。 中村さん夫妻は新宿23時54分発、ムーンライト信州81号に乗る。私たちは0時28分、立川でこれに乗る。 ヨーゼフとクーを娘の家に預け、立川にはちょっと早めの0時ちょっと前に着き列車を待った。 しかし原因は分からないが、この日の中央線は遅れていて、ムーンライト信州81号も定刻を10分ほど遅れて私たちの待つ立川駅にやって来た。 流石にバスよりは楽なものの、やっぱり寝るのは難しく終始うつらうつらしている内に空は白み始めてしまった。 空を見ると所々切れ間はあるが雲が被さっている。そのうち雲が赤く染まり松本辺りで夜明けを迎えた。 穂高駅には定刻どおり4時51分に着き、改札を出ると予約していたタクシーが待っていた。駅前からは「有明山」が目の前に聳えている。
早速タクシーに乗り込み、途中コンビニに寄ってもらい一路登山口の中房温泉に向った。 5時40分ごろ中房登山口に着いた。 近くの駐車場は車でいっぱい。登山口も登山者でいっぱいだった。 とりあえず軽い朝食を取り、身支度を整えて6時過ぎに登山口を出発した。 登山者用の温泉場とトイレの間を通って樹林帯の登山道に入って行く。すると直に急登が始まった。 「最初から急登か」と、まだ完全に暖まっていない身体にはきつい登りだ。でも足元は歩き易いのでまだ救われる。しかも周りはブナやナラの林なので気持ちが良い。 階段状の急登を続けどんどん高度を上げて行く。30分ほど登るとやや下る。下ったところが第1ベンチで、何組かのグループが休んでいた。 私たちはここを素通りし、休憩を予定している第2ベンチへ向かった。平坦な道は直に終わり、またまた急登が続く。笹の繁った樹林帯の中を黙々と先へ進んでいく。
やがて荷物用リフトのケーブルの下を潜り右に曲がって行くと第2ベンチに着いた。 ここで1回目の休憩を取った。 もう身体は汗でびっしょりだ。ベンチの一つに腰を下ろしホッと一息つく。 まだ天気はもっている。歩き始めてすぐの頃、ホンの一瞬だけど太陽も顔を出したので予報どおり今日は何とかもってくれるだろう。 まだ先は長いので10分休んで出発した。次の第3ベンチまでは約40分。歩き出してすぐ何かパラッときた感じがしたけど3人とも分からないという。私の気のせいだろうと先へ進む。 相変わらず曲がりくねった道を急な階段の登りや木の根をかわしながら第3ベンチへ向かう。 まだまだ先だなと思いながらひたすら登って行く、すると意外に早く第3ベンチにたどり着いた。30分も掛かっていない。 予定より早く着いたので次の富士見ベンチまで行こうかと話していた所、ついに雨がパラパラと降り出してきた。 どっちみち汗で濡れているしこのまま行くかカッパを着るか思案していると降りが強くなってきた。結局カッパを着て進むことにした。カッパを着ているととても暑い!
暫くすると雨が小降りになったので、私はすぐにカッパを脱いでしまった。 30分ほどで富士見ベンチに着いた。この時点では雨も止んでいた。 ベンチの前が開けていて展望が利く。はるか山並みの彼方に富士山が霞んで見えた。写るかどうか分からないけど一応写真に収めた。第3ベンチでカッパを着たりして結果的に休んだけど、ここは見晴らしが良いので10分ほど休憩した。 ここまでで結構疲れてきたけど次のポイント合戦小屋では大休止の予定なのでもう少し頑張ろうと、また歩き始めた。 第3ベンチから富士見ベンチまでがこのコースで一番きつい区間と何かで見た気がするが特には感じなかった。他の区間もきついのでそう感じたのかも知れない。 歩き出すと再び雨が降り出してきた。またまた脱いだカッパを取り出して急いで着る。 この辺りから登山道は花崗岩のざらざら道になってきた。
汗と雨でぐっしょり濡れて30分ほど歩くとやっと合戦小屋に着いた。まだ9時なのでここで時間調整もあり、予定通り大休止することにした。とりあえずおにぎり(我家のはいつも小さい!)を食べてお腹の機嫌をとる。 次に楽しみにしていた名物のスイカを食べた。800円(八つ切り)と少々お高いけどここは頂かないと・・・。 おかーさんと半分個してかぶりつく。美味い! とても甘くて、疲れた身体、それも汗で水分が放出されカラカラ(外側は汗と雨で水も滴るいい男?)になったわが身にはこの上ない極上のデザートだった。 予定でもここでは30分の大休止を取る積りだったけど、ふと気が付くとその30分を過ぎていた。 「そろそろ行くか」と汗で内側も濡れたカッパを着て出発した。 ここらかはもう急登はそれほどはなく、合戦沢の頭を過ぎれば森林限界で高い木もなくなり見晴らしもいい。ただ残念ながら今日は雨だけど・・・。
小屋の前から再び樹林帯に入り登り始めた。暫く行くと私の腿が攣りそうな兆候がでてきた。以前にも攣った経験があり痛い思いをしている。寝不足と疲れによるのだろう。ムリすると攣ってしまうので中村さんやおかーさんには先に行ってもらいゆっくり騙しだまし歩く。 道の両側にはイワカガミやショウジョウバカマなど(他にもいっぱい笹の間に咲いているが私には花の名前が分からない)高山植物が目に付くようになってきた。 20分ほどでちょっとした高台に出た。合戦沢ノ頭のようだ。みんなが待っていてくれた。 ここからは潅木や笹の間に赤、白、黄の高山植物が咲き競っている。ゆっくり歩くのもいいものだ。 雨も小降りになっていたので写真を撮りながら行く。登山道の右側(北)は深い谷に切れ落ちている。所々に雪渓が残っていた。 腕時計を見てそろそろ山荘に着くころだろうと山側を見上げるとホントに山荘が見えた。 元気を取り戻しここだけ両側雪の壁の間を抜けると稜線に出た。 右はテント場、左の階段を登り石垣の間を通り「燕山荘」玄関前広場に出た。 ここから北に「燕岳」が見え、南には「大天井岳」へ続く稜線が、その右前方には「槍ヶ岳」が眺望できる絶好のロケーションなのだが、生憎天気が悪く望めなかった。残念! フロントでチェックインを済ませ、部屋(2段ベッド部屋)へ案内して貰った。私たちは上の段で、21から28まで使って良いと言う。
布団は6組だけど枕は8個あるので、最大8人寝かせるのだろう。後で混んで来たら相部屋をお願いするのでお願いしますと案内してくれた山荘の人が言っていたが、結局私たち4人だけだった。 食堂脇の喫茶室でコーヒーを飲み一休み。外は雨が降っているので「燕岳」山頂へは明日にすることにした。 ところが2時間もすると雨が止んでくれたので急遽「燕岳」へ行くことにした。 荷物はカメラ以外持たずに空身で出発。ただし何時降るか分からないのでカッパを着て出た。 目の前のピークを左に巻いて下って行くと、花崗岩のザレ場に出た。行く手には自然の作った芸術品とも言うべき様々の形の奇岩が屹立している。 ザレ場の斜面には高山植物の女王「コマクサ」が其処此処に咲いている。自然のコマクサがこれほど群生しているのを私は初めて眼にした。 コマクサの他にもハイマツの間からチングルマを始めいろいろな高山植物が顔を出している。写真を撮ったりして、岩や花を楽しみながら山頂を目指して行くと、やがて雨がまた降り出し西風も吹いてきた。 岩の間を潜り抜け、砂礫の道を上り下りして一際大きな岩群に辿り付いた。 道標があり、左に行くと「北燕岳」、真っ直ぐ行くと「燕岳山頂」とある。木の階段を上り巨岩を回り込み、最後の大岩を上るとそこが山頂だった。
山頂にはプレートが岩に埋め込まれていた。 この頃には西風が強くなり、雨も横殴りになってきていた。 燕岳と北燕岳の間にはお花畑があるとのことなので行きたかったが、この風雨なので止め、記念写真を撮って山荘に戻ることにした。 山荘までは強い横殴りの雨でカッパを着けなかったズボンはびっしょりに濡れてしまった。それでも時々立ち止まって写真を撮っていた私だった。 燕山荘に戻るとカッパやズボンを乾燥室に入れ、ちょっと仮眠した。 4時に起き出し、夕食時間の5時まで喫茶室でビールとワインで談笑した。夕食後、乾燥室へ衣類の乾き具合を見に行ったおかーさんがなかなか帰ってこないので様子を見に行くと、おかーさんのズボンがないと言う。 私も一緒に探したけど見つからなかった。
間違えられたかと思ったけど、どうも状況は違うようだ。山荘備え付けのハンガーに下げて干したのだが、分かり易いようにハンガー同士を紐で繋いで、干し物一つひとつに名札(これも山荘で用意)を付けて置いたのだ。しかもその名札が乾燥室の棚に置いてあった。思いたくはないけど気分悪し。 とりあえず寝床に入り寝ることにした。ところが7時半頃ホルンの音色で眼を覚まし、そうだ夕食後山荘ご主人のホルン演奏があるのを思い出しおかーさんと食堂へ行った。 立ち見?もあるほど大聴衆が詰めていた。わたしたちは遅く行ったので最後の方しか聞けなかった。
【2日目】 翌日4時前に目覚めると外は相変わらず雨が降っていた。 朝食後喫茶室でコーヒーを飲みながら予定通り「常念岳」へ行くか4人で相談した。協議の結果、この雨では景色を見ることはできないし、明日も続くとの天気予報なので下山することになった。 雨が降っているので下山は早めのペースで下った。途中合戦小屋と第2ベンチで休憩を取り、2時間ちょっとで中房の登山口に戻った。そう言えば随分先行グループを追い抜いたっけ。 中房では登山口の温泉に入ったが、これはちょっと失敗だった。と言うものお湯がとてもぬるい上露天風呂しかなかったのだ。 まっそれでも2日間の汗を流してサッパリはした。タクシーを呼んでいる間休憩所で生ビールを飲んで待った。 運転手さんが面白い人で、穂高駅に着くまでずっと話が絶えなかった。 駅に着くと先ずは特急あずさの切符を確保してから、運転手さんに教えてもらった駅のそばのお蕎麦屋さん「一休庵」に行き、ビールと焼酎の蕎麦湯割りを何杯か飲んで最後に美味しいお蕎麦を頂いて帰宅の途についた。 家には6時ごろ着いた。すぐに桜のところへヨーゼフとクーを迎えに行った。2人とも大喜びで私たちに飛びついて来た。 今回の山行は第1の目的だった槍・穂高を見ながらの稜線歩きは叶わなかったものの、コマクサの群生をはじめ可憐な高山植物の数々と逢え、人気どおりの素晴らしい「燕岳」を歩けた充実した山行だった。 おかーさんのズボンがなくなってしまったハプニングはあったけど、「燕山荘」や「燕岳」の素晴らしさはもちろん変わらない。 できれば今年の秋にもまた訪れたいと思わせる山だった。 |